04 ティアのお母様は美人!そしてチート!

フェディス歴1874年7月18日。タヴェルニアとの戦闘から2週間が経過した。その2週間の間は何事もなく平穏である。
そしてシュロス学園…。ヴェルディがやってきた。現在、校庭にてティアとヴェルディがいる。ティアが希望していた遺跡調査の許可については…

「すまぬティア。許可は下りなかった。代わりにシュロス学園で新型機の開発を思い通りにやっていいとのことだ」

下りなかった。

「ぷー!」

それを聞いたティアは頬を膨らませて不満を抱いた。

「遺跡調査は男のロマンです!扉の奥に進まなくても見るだけで十分でしたのに残念です!」

と、ティアは残念がっていたという。

「だけど、新型機の本格的な開発を思い通りにできるなら結構です。こうなったら、僕専用のトルーパーを作ってみせましょう!」

しかし、シュロス学園で本格的な新型機の開発を着手できるだけあって、ティアはやる気に燃えていたという。

「そういえば今日は授業参観だったな。母親は来るのか?」
「はい。昨日、お母さんが来たんです。ヴァロビニア島をご存知でしょうか?」
「ああ。我が国の領域で東にある無人島だな。それがなにか?」
「お母さんが言ってたんですけど…ヴァロビニア島には遺跡があるそうです」
「なに?」
「ご存知なかったのですか?」
「ああ。アルバーノ領内の遺跡をすべて把握しているわけではないからな」
「認知されていないのなら、許可は必要ないでしょうか?」
「そうだな。国家の管理下ではないなら別だ」
「それじゃ!いよいよヴァロビニア島の遺跡調査ですね!」

許可なく遺跡調査ができるとティアは目を輝かせていた。そのティアにヴェルディは引いたとか…。

「あんまり人にベラベラと話すのはよろしくないわよティア」

そのとき、一人の美女が現れた。黒髪のロングヘアーに豊満なスタイルと美貌を併せ持ち、太刀を携えている。

「お母さん」
「なに?」

ティアはその美女を母と呼んだ。

「ティア、この様子だと学園生活を充実してるわね!」

と、その美女はティアを抱き締めて、ティアの頬っぺたにチュッチュし始める。
その後、ティアはヴェルディを紹介する。

「ティアの母親のディアナ・ルンヴェルグです。いつもティアがお世話になりまして…」
「ああいや、こちらがお世話になっています。前々からディアナ殿にお会いしたいと思いまして」
「アルバーノ王国第1王女にして女王騎士団長がわたしにお会いしたいなんて、どうしてなの?」
「実はティアのトルーパー操縦技術と戦闘能力が他の女王騎士を上回るだけでなく、シュピーゲルという新型の開発に成功したのです。とくにティアをこのように強く育てたディアナ殿に大変興味を持った次第です」
「そういえば、タヴェルニア軍との戦闘に参加したとティアは言っていたわね。わたしがヴァロビニア島でヴァルファーレの連中と戦っているときにそんなことになっていたとはね…」
「ヴァルファーレ!?」

ディアナの口からヴァルファーレという言葉を聞いてヴェルディは驚愕した。

「それは後にするわ。今は授業参観が楽しみ♪いくわよティア」
「はい。では姫様、またあとで」

ディアナはティアを連れて、この場を後にした。
それから間もなく、ケネスという重要軍事要塞ウェンツェルの総司令官が現れた。なぜここにいるのかというと、シュピーゲルの調達である。

「姫様、今のお方はティアフル君の母君でしょうか?」
「ああ。それと、ヴァロビニア島を密かに調べてくれ」
「ヴァロビニア島ですと?」
「どうやら母君はここに来る前に、ヴァロビニア島で神聖ヴァルファーレ帝国の勢力と戦闘したそうだ」
「ヴァルファーレですと!!?」
「今でもヴァルファーレがいるのかどうかを調べてきてほしいのだ。それと、調査結果はわたしだけに報告せよ。まとめてから宮殿に報告する」
「かしこまりました」

ヴェルディの命令を受けたケネスは急いでこの場を後にする。

 

今日はシュロス学園の授業参観。生徒の保護者が子供の授業を目の当たりにするために集まった。軍人・騎士を職業とする保護者もいれば、民間企業などに勤めるサラリーマンの保護者などもいる。
その中でもとくに目立つのが、ティアのお母様ディアナ。子供がかわいいなら母親も美しい。かなりの美しさに男性保護者達と一部の男子生徒達は魅了され、中には口説く人もいたのだが、却下される始末。
ティアとの親密を計るためにはまず、ティアの母親に挨拶を行うのが普通。シュロス学園のティアのファンクラブ「ティアきゅん愛好会」の女子生徒達は、そのお母様とどのようにコミュニケーションを取ればいいのかと考えていたのだが、一人だけティアに近づく泥棒猫がいた。エドナである。
そして休み時間…。

「機甲兵科1年エドナ・ターヴェイと申します。ティアの彼女でもあります」
「えぇ!?」

エドナはティアのお母様であるディアナにご挨拶。エドナの挨拶の内容にティアは驚きを隠せなかった。まだ彼女ではないのに…。

「ディアナよ。かわいい彼女さんね」
「へへ…」
「だけど交際は認めない」
「えぇー!?」

しかし、ティアとの交際を認められなかったことに、エドナは衝撃的に驚いた。そして落ち込んだ。

「かわいい息子を誰がやるもんですか♪」
「うぅ~…」

ティアを溺愛するお母様である。

「もし、ティアきゅんと交際したかったら、このわたしを倒すこと!自分の力で愛を勝ち取りなさい!」
「……………」

さらに、自分を倒したらティアとの交際を認めてもいいとディアナは話す。これを聞いたエドナは絶望した。勝てる気がしないと…。

 

次の授業はトルーパーの技術。トルーパー格納庫に移動。

「ここにいるティアフル・ルンヴェルグが、我が国の最新兵器シュピゲールの開発者!このシュピゲールのおかげで、領内に攻めてきたタヴェルニア軍を蹴散らしたのです!」
「「「おぉ~」」」

ジョルズは熱心に説明すると、保護者達は関心の声をあげた。

「さすがわたしの息子ね。次はわたしも参加しようかしら」
「いや、お母さんが出たら戦闘があっという間に終わるからダメ」
「なんでよ!?」
「メカ同士の戦闘は男のロマンだから!」
「「「……………」」」

キラキラと目を輝かせるティアにみんなは引いたとか…。

「戦闘があっという間にって…どれくらい強いんだ?」

ジョルズはティアに聞いた。

「う~ん…生身にもかかわらず大量のモンスターを蹴散らしたり…禁術の魔法を平気で使ったり…過去に手配モンスターのランクSを秒殺したこともありましたし…」
「…どんだけすげぇんだよお前の母ちゃんは…。しかし…有名にならんな…」

ディアナがこれだけの強さを持っているにもかかわらず、有名になっていないことをジョルズは不思議がる。

「試してみる?」
「いえ!結構です!!」

ディアナは太刀を構えた瞬間、ジョルズは冷や汗を掻いて断ったという。

 

それから時間が経過。一方、ヴェルディは校舎内の一室に執務室を設けて事務的な作業を行っている。そのとき、ウェンツェルの司令官であるケネスが現れた。

「どうだ?」
「はい。ヴァロビニア島で神聖ヴァルファーレ帝国の部隊を確認しました。国旗を掲げていたので間違いありません」
「戦力はどうだ?」
「我々が保有するトルーパーより大きなトルーパーが数機、大型飛空船が1隻、数十人の兵士を確認しました。しかも、ヴァルファーレのトルーパーは飛行能力を持っています」
「いなくなってくれればよかったものの…。鎖国状態であるヴァルファーレの情報がなかなか入ってこないからな…」
「いかがなさいましょうか?まさか戦うのですか?」
「トルーパーに飛行能力がある時点で我々は不利だ。このまま監視を強化して続行。それと、宮殿には報告するな。混乱を避けたい」
「わかりました」

命令を受けたケネスはそのまま持ち場に戻っていった。
その直後…。

「手は出さないほうがいいわ」
「ディアナ殿」

ディアナが現れた。

「神聖ヴァルファーレ帝国の機体はキャバリーと呼ばれている。ビームライフルとビームサーベルなどの光学兵器を装備して、さらに飛行能力を有する。動力源はエルクリックエンジンではなくネフィリムドライブ。エネルギーは魔力でなく電力。出力は改良されたエルクリックエンジンより数十倍よ」
「それほどの性能を持っているのですか!?」
「それだけじゃない。ヴァロビニア島にはあの女がいる」
「あの女とは?」
「神聖ヴァルファーレ帝国皇帝直属、世界最強12騎士「ウラノス」が一角、クレイン・フォン・ミュッケンベルグ。あの女は竜に騎乗する騎士ドラグーンなんだけど、騎乗する竜は「竜王ザヴォルグ」。そして専用機は「タイラントヴァレス」。白兵戦でも機体操縦技術も、ある意味神を超えている」
「詳しいですね」
「まあ、あの女と何度も戦っているからね。一番厄介なのは、竜の召喚よ。指定したエリア一帯に一気に召喚してくる。だから絶対に手を出さないほうがいい」

ディアナの忠告にヴェルディは頷く。
しかし、このときのヴェルディはまだヴァルファーレを甘くみていた。

 

それから時間が経過。シュロス学園の闘技場。機甲兵科の上級生はシュピゲールに搭乗して実技訓練を受けて、エドナを含む下級生はグレイギスやグレイサなどに搭乗して実技訓練を行っている。合同でである。闘技場の観客席には機甲兵科の生徒の保護者もいる。現在、上級生達はシュピゲールをまともに動かしている。
その闘技場に技術科1年1組とその保護者が現れた。

「うわぁ~僕も参加したい~♪」

ティアは目を輝かせていた。メカマニアの血が騒いでいる。
そして、機甲兵科の生徒は休憩に入る。

「あっ!ティアく~ん!」
「エディナさん…」

エディナはティアを発見すると、ティアに抱きつく。ティアきゅん愛好会の女子達はこの光景を目の当たりにして、ドス黒いオーラを漂わせている。

「年上の女性にもモテモテなのねティア」

と、呆れるディアナである。
その後、ティアはディアナを紹介すると…。

「機甲兵科5年エディナ・ターヴェイと申します。ティア君とは清いお付き合いをさせていただいています♪」

エディナは自分のポイントを稼ごうとディアナに自己紹介してかしこまった。

「エドナちゃんと同じ内容ね」
「えぇ!?」
「だけど交際は認めない♪」
「ガーン!!」

交際を拒否されてショックを受けるエディナである。
そのとき、ヴェルディが現れた。

「「「姫様!?」」」

生徒達と保護者はヴェルディにひざまずく。

「よい。それよりディアナ殿」
「?」
「わたしと模擬戦してもらえないでしょうか?」
「いいわよ」
「「「ええ!?」」」

ヴェルディに試合を申し込まれたディアナは即答で了承する。それを聞いたみんなは驚いた。
それから、ヴェルディとディアナは闘技場に立ち、残りは邪魔にならないよう後方に下がる。このとき、ヴェルディは剣を手に持ち、ディアナは太刀を手に持つ。

「ルールは?」
「魔法ありの一本勝負。では、参ります!」

試合が始まった。ヴェルディは一気に接近して攻め込むが、ディアナは紙一重でかわす。それも何度も…。積極的に攻め込むヴェルディにディアナは難なくかわしている。
外野のほう…。

「すご~い。ヴェルディ姫様は女王騎士やその他の騎士でもかなわないというのに…」
「ああ…他国でもその武勇伝を轟かせていると聞いたけど…」

エドナとジュアスは驚きの表情でコメントを述べる。

「それだけじゃねえ」
「「「ジョルズ先生!?」」」

ジョルズが現れた。

「ティアの母ちゃんはただ単に攻撃をかわしているだけでなく、柄で姫様にダメージを与える。姫様がこんなにあしらわれているところを見るのは俺も初めてだぜ」

たしかに、ディアナは攻撃をかわすごとに柄でヴェルディにダメージを与えている。
ヴェルディはアルバーノ王国第1王女にして王太女でありながら、アルバーノ王国最強を誇る女王騎士でもある。しかし、気がついたらヴェルディはかなりのダメージを受けている。

「あらヴェルディ、終わり?」

ついにヴェルディは地面に膝が着いてしまった。

「まだまだ!」

ヴェルディは剣を媒体にして魔法を行使する。

「インフェルノバーン!!」

炎の上級魔法を放った。しかし、ディアナは避けようとしない。それどころか、太刀を振るった。ヴェルディが放ったインフェルノバーンはあっさりとかき消された。

「なっ!?」
「せい!」

ヴェルディが驚愕した瞬間、ディアナは一瞬の隙を見逃さなかった。ディアナが振るった太刀から斬撃波が放たれるも、ヴェルディはかわす。しかし、斬撃波が闘技場の一部に直撃して、横向けの真っ二つとなった。

「「「ええぇーーーー!!!??」」」

この光景を目の当たりにした人達は全員、驚愕を隠せない声をあげた。

「……………」

同じく目の当たりにしたヴェルディも驚きの声が見つからなかった。

「あら、久しぶりだからやっちゃった♪」

テヘッと表情になるディアナである。

「…参りました…」
「じゃあトルーパー戦やる?」
「結構です…」
「賢明ね」

ヴェルディは降参。どう考えても勝てる相手じゃない。そう判断した彼女である。トルーパー戦で勝ちを取ろうと考えるも、やはり自分が負けることしか想像できなかった。

「あなたは何者ですか?」

ヴェルディは聞いた。

「宝石商兼傭兵、と名乗っておこうかしら。わたしの正体を知るのはまだ早いからね」

はぐらかすディアナであった。

 

そして夕方になり、授業参観は終わった。シュロス学園の校舎内に設けている執務室にヴェルディがいる。

「はぁ…上には上がいるもんだな…」

ディアナにまったく手が出せず敗北した。

「失礼します」

ケネスが入室してきた。

「聞きましたぞ。ティアフル君の母君に惨敗したと…」
「ああ。ヴァルファーレにはディアナ殿に匹敵する騎士が多くいるそうだ」
「なんと…」
「それで…ヴァロビニア島の様子は?」
「ヴァルファーレに動きはありません」
「ディアナ殿の情報によれば、ヴァルファーレ皇帝直属ウラノスの一角がいるそうだ。ディアナ殿はその一角と何度も交えていると聞いたが、わたしでも勝てないそうだ」
「……………」
「24時間監視を徹底してくれ」
「宮殿には報告しますか?」
「いや、もうしばらく黙っている。ヴァルファーレが調査するほどだ。正直、この事実を宮殿に知られたくない」
「わかりました」

ケネスはヴェルディの考えを理解する。

「姫様!!」

そのとき、女王騎士の女性が現れた。

「いきなり現れて無礼だぞ」
「申し訳ありません!実は宮殿から書状が届きました!」

女王騎士の女性は手に持っていた書状をヴェルディに渡し、ヴェルディは書状を開封して読み始めた。

「どうしてそんなに慌てているのだ?」

ケネスは聞いた。

「はい。実はタヴェルニアから、このシュピゲールの設計図は偽物だと抗議をしてきたんです」
「なに…!?」

シュピゲールの設計図をタヴェルニア王国に渡すことで戦争を回避することに成功した。しかし、シュピゲールの設計図は真っ赤な偽物。それが発覚して、タヴェルニアがこのアルバーノ王国に抗議して今に至るという。

「姫様、書状にはなんと…」

ケネスはヴェルディに聞いた。

「宮殿に来いとのことだ。こっちはヴァルファーレの件で頭を悩ませているというのに…」

と、ヴェルディはぼやく。

「ヴァルファーレって…あの神聖ヴァルファーレ帝国の…!?」

女王騎士の女性は驚きの声をあげた。

「ああ。ヴァロビニア島にいるが、現時点で戦闘する意思はないそうだ。他言無用で頼む。混乱は避けたい」
「わかりました」

と、ケネスは説明する。

 

フェディス歴1874年7月19日。アルバーノ王国首都ヴァーミリアン・ヴァーミリアン宮殿の謁見の間…。玉座には女王ラミヴェルと、その目の前にヴェルディがいる。ラミヴェルの周りには公爵4人がいる。現在、ヴェルディはラミヴェルに跪いて、タヴェルニア王国との停戦合意の内容について説明する。

「偽物の設計図を渡したというのは本当だったのですか!?」

ラミヴェルは驚きの声をあげる。

「シュピゲールの設計図を渡したくありませんでした」

ヴェルディはこう述べる。

「その判断はただしいと思っています。シュピゲールがひとつあるだけで戦力が変わってきます。そもそも先に手を出したのはタヴェルニア王国です。これだけで済んだのだから、むしろ我々に感謝するべきです」
「はい。偽物の設計図とはいえ、合意に納得したのはタヴェルニア王国のほうです。わたしがヴェルディ王女殿下のお立場なら、同じようなことを行ったことでしょう」
「タヴェルニアのたびたびの攻撃で民間人にも多くの被害が出ている。停戦協定できただけでも妥当ではないでしょうか?」

カイヴァル公とベルドナルスキー公とトラーレンク公はヴェルディを擁護する。

「しかし、それで戦争を避けられるなら、シュピゲールの設計図を渡すのが得策なのでは?」

ウェルクロム公はタヴェルニアを擁護する発言をする。

「それだと我々がタヴェルニアの軍事力向上に貢献することになります」
「……………」

カイヴァル公がウェルクロム公の発言を否定する。これに言葉が見つからないウェルクロムである。

「しばらく様子をみましょう。それとヴェルディ、なにか悩みがあるのですか?」

ラミヴェルはヴェルディに尋ねた。

「いえ…」
「話しなさい」
「はい…」

ヴェルディはラミヴェルに隠し事ができないと判断し、ある事実を打ち明けた。その事実とは、神聖ヴァルファーレ帝国がヴァロビニア島にいるということである。

「なんですって!?ヴァルファーレが!?」

ラミヴェルは驚きの声をあげる。公爵4人も動揺を隠せなかった。

「現在はケネスというウェンツェルにヴァルファーレの動きを監視しています」

ヴェルディは述べる。

「わかりました。あなたの思うとおりにしなさい。ただし、次からは隠し事は許しません。よいですね」
「はい。わたしはシュロスに戻ります」

ラミヴェルに釘を刺されたヴェルディ。そのまま謁見の間を後にする。

「カイヴァル公」
「はっ」
「ヴェルディを監視しなさい」
「えっ…いや…しかし…よろしいので?」
「ヴェルディはまだ隠し事をしています。その内容をわたしに報告してください」
「わかりました」

ラミヴェルの命令を受けたカイヴァル公は承諾する。

 

夕方…ウェルクロム公爵家の屋敷…。その一室に一人の男がいた。

「待たせたな」

ウェルクロム公が現れた。

「それで公爵、シュピゲールの設計図は…」

男は聞いた。

「しばらくは渡せぬ」

と、ウェルクロム公は答える。

「あなたに多額の賄賂を渡したのに、それはないでしょう」
「タヴェルニアの外交官ごときがわたしに逆らうではない。女王陛下に本格的に協力してタヴェルニアに戦争を仕掛けることもできるのだぞ?」
「ふん…。国家機密を売り買いしているあなたに言われる筋合いはありませんよ」

どうやらその男はタヴェルニアの外交官である。ウェルクロム公は多額の賄賂を受けて、タヴェルニアに国家機密を密かに渡している。つまり、スパイ行為をウェルクロム公は行っているという。もし、これが露見されれば、国家反逆罪に問われてウェルクロム公爵は断絶。当主を含めて、一族郎党すべて処刑となる。

「だが、今はタヴェルニアに構っている暇はない。我が領土に神聖ヴァルファーレ帝国の部隊が潜んでおるのだ」
「なんですって!?それはまことですか!?」

外交官はヴァルファーレの存在に驚きを隠せなかった。

「もし、アルバーノとタヴェルニアが戦争状態になったら、その間にヴァルファーレが割って入り、結果は両国滅亡。しばらく顔を見せるな。ヴァルファーレの対応にわたしは忙しくなる」
「…わかりました…」

事情を知った外交官はそのまま去ってしまった。その様子を窓から見届けるウェルクロム公である。

(今は時期ではない…)

ウェルクロム公はなにかを企んでいるようだ。

「お父様」

そのとき、美しい少女が現れた。

「おおリーザ。どうかしたかね?」

ウェルクロム公はリーザという少女に話しかけた。

「やはりわたくし、お見合いなんていやです」
「なぜだ?相手が気に入らなかったのかね?ウィーデル伯爵家は数ある伯爵の中でも名門中の名門。その名門に嫁ぐことができるのなら、これ以上の幸せはないだろう」
「お父様は幸せかもしれませんが、わたくしは幸せではありません。やはり、好きな人と結ばれないと、真の意味で幸せになりません」
「しかし、相手のウィーデル伯爵家長男ラルーゼ殿は容姿端麗だけでなく優秀で、女王騎士団の中でも一目置かれている者だ。お見合いして好きになれば問題ないではないか」
「お父様は知らぬかもしれませんが、わたくしはあのような傲慢な方と一緒になりたくありません。どうせ一緒になるのなら、平民の殿方のほうがまだマシです!」

平民の殿方のほうがまだマシだという言葉に、ウェルクロム公は怒りを露わにした。

「アルバーノ王国は厳しい階級制度が設けられている!貴族と平民が一緒になれるわけがなかろう!平民は一生、貴族と王族の奴隷なのだ!そもそも平民はすべて無能なのだ!有能である貴族と、神のような等しき王族の方々に貢献できるだけで、平民は幸せなのだ!!」

貴族主義の一面を露わにするウェルクロム公である。

「なんとしてもお前にはラルーゼ殿と見合いし、結婚してもらうぞ」

リーザの想いはむなしかった。そして泣き崩れた。

 

フェディス歴1874年7月22日。あれから3日が経過。この3日の間、国立アルバーノ王侯貴族学園に動きがあった。
アルバーノ学園の貴族生徒から、シュロス学園に対する非難の声が多く上がっている。最近のシュロス学園は優遇し過ぎている。なぜシュピゲールという新型機の製造と開発をシュロス学園が携わっているのか…。なぜ誉れ高き女王騎士団長にしてアルバーノ第1王女であるヴェルディ姫殿下がシュロス学園に入り浸っているのかなど、数多くの声が聞かされている。多くの貴族生徒は貴族主義の思想を持っている。シュピゲールの製造と開発を行うなら、平民より優秀である我々が行うべきだと、一部の貴族は声を上げている。しかし、ヴェルディは方針を変えない。今までのことを考えると、貴族より平民のほうがマシである。とはいえ、一部の貴族に対してはある程度の信頼を寄せている。
もうひとつ、アルバーノ学園からクロムウェル公に多くの陳情が寄せられた。クロムウェル公は4公爵の中でも強硬な貴族主義を掲げる。同じ貴族主義の思考が強い貴族からの信頼が厚いとされる。それに応えるかのように、クロムウェル公は貴族同士のお見合いの仲介を行うなどしている。クロムウェル公の仲介によって結婚に至った貴族は数多く存在する。ただし、平民に対する仕打ちが強く、何度も暴動が発生していることについて問題視されているという黒い部分もある。
そして、シュロス学園にも動きがあった。中心となる人物はティア。ティアはついに自分専用機のトルーパーの開発に着手し始めた。シュピゲールをモデルにしているが、ティアはとんでもない設計図を仕上げた。設計図の内容によれば、トルーパーに飛行機能を搭載、アルケミバッテリーを2つ搭載、高周波振動剣ガルヴァブレイド2基携帯、電磁ライフルのルヴァーストを装備。理論上のスペックだと、シュピゲールの2倍以上とされる。しかもティア、目を輝かせている。

「これぞ男のロマン!だけど遺跡調査ができない…」

遺跡調査ができないことを残念がっていたとか…。この様子をティアのファンクラブ「ティアきゅん愛好会」の女子生徒達が目を輝かせながら見守っていたとか…。
一方、シュロス学園校舎内の執務室。そこにはヴェルディがいる。現在、女王騎士の女性から報告を受けている。

「わかったイルマ。お前は休め」
「はい」

女王騎士の女性の名はイルマ。ヴェルディの秘書兼メイドとしての役目を担う。貴族で、サーディン男爵家の長女である。

「ヴァルファーレは撤退したか…。だが油断はならぬ。なにかが起こらなければよいのだが…」

イルマが報告した内容によれば、ヴァロビニア島からヴァルファーレが撤退したとのこと。

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